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ストレス研究室

あがり症や赤面症は克服できる?
あがり症の症状や原因、治療法などを紹介

「人前で緊張しやすく、プレゼンが苦手」「ちょっとしたことですぐに顔が赤くなってしまうので、恥ずかしい……」といった悩みを抱えている方は少なくないでしょう。
しかし、このような「あがり症」や「赤面症」の経験が、一時的なものにとどまらず日常生活にまで影響をおよぼしている場合は、何らかの対処が必要です。
この記事では、あがり症や赤面症の症状や原因を説明するとともに、症状の改善につながる治療法をいくつか紹介します。あがり症や赤面症の自覚がある方、過度な緊張でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

藤井英雄先生

監修:藤井英雄先生
精神科医、医学博士、一般社団法人あがり症克服協会 顧問医師

日常生活に支障をきたす「あがり症」とは?

あがり症は、単に人前で緊張しやすいだけでなく、さまざまな症状をともないます。
ここでは、あがり症のおもな症状や、人前で顔が赤くなってしまう赤面症との関係などを見ていきましょう。

そもそも「あがり症」とは

あがり症は、大勢の人の前で話をするなど人から注目される場面で、下記のような身体症状が強く表れる状態をいいます。

・心拍数が増加する
・呼吸が浅くなり、喉が詰まるような感じになる
・手足の震えが止まらない
・顔が赤くなる
・汗が止まらなくなる など

このような症状が一時的なものであれば、単なる「あがり体験」といってよいでしょう。しかし、通常の会話をするだけで強い不安を覚えるなど、日常生活に支障が生じるほどのあがり症は、「社交不安障害」という病気の可能性があります。

社交不安障害は珍しい病気ではなく、世界的に見るとその有病率は3~13%といわれています。
発症時期は8~15歳の学童期が多いとされ、子どもの場合は緊張する場面を避けるために、学校を欠席・退学することで見つかるケースも少なくありません。また、担任教師や養護教諭などへの相談から明らかになることもあるようです。

もちろん、大人になってから社交不安障害を発症する場合もあります。
実際、社会人になってから会議やプレゼンテーションなど人前で話をする場面で発症し、産業医などからの指摘で気付くケースもあります。

一方で、社交不安障害の症状が家庭内で表れることは少ないとされているため、家族からの指摘で気付くことは少ないようです。

あがり症の症状

社交不安障害には、下記のようなさまざまな症状があります。

・赤面症(赤面恐怖症)
人前に出ると顔が赤くなる、あるいは赤くなっているのではないかと不安に感じる症状。
頬や耳など、赤くなる場所は人によって異なる。

・視線恐怖症
人の目を見るのが怖い、どこを見たらいいのかわからない、人から見られるのが怖いなど、視線を必要以上に意識する症状。

多汗たかん
人前に出るなど緊張する場面で、顔や脇、手などに大量の汗をかく症状。
汗をかいたことに焦り、さらに汗をかくという悪循環に陥ることがある。

吃音きつおん
人前で話すときスムーズに話せず、うまく言葉が出ない症状。
特に一言目が出にくいのが特徴で、いったん言葉が出るとスムーズに話せることが多い。

書痙しょけい(振戦恐怖症)
人前で文字を書く際に、緊張して手が震えてしまう症状。
来客にお茶を出す際に手が震えるのも、書痙しょけいの一症状といわれる。

・電話恐怖症
職場などで自身の電話対応を周囲に聞かれることに、恥ずかしさや恐怖を感じる症状。
電話対応時にうまく話せないだけでなく、電話に出ることすらできない場合もある。

・会食恐怖症
大人数での食事や、1対1での食事ができない症状。
何らかの体験をきっかけに発症することが多く、なかには会食時の沈黙に恐怖を感じるケースもある。

・パニック症
極度の緊張で「頭が真っ白」になってしまう症状。
話そうとしていた内容を忘れてしまったり、何を話しているのかわからなくなってしまったりする。

・呼吸困難
不安や緊張により、息の吸い方や吐き方、呼吸の適切なタイミングなどを見失ってしまい、うまく呼吸ができなくなる症状。
焦りで息がしづらくなったり、過呼吸で息を吸い過ぎたりする。

社交不安障害では、上記のような症状に加えて、不安や恐怖を感じる場面を極力回避しようとする行動異常も見られます。
この回避行動が、緊張する場面だけでなく日常生活の場面にまで拡大すると、社会生活に大きな支障をきたすことになるでしょう。

また、上記のような症状を放置すると、うつ病やアルコール依存症を併発する場合もあるため、早期発見・早期治療がとても重要です。

「赤面症」は対人恐怖症の一種でもある?

先述のように赤面症は社交不安障害の症状の一つです。ただ、赤面症は社交不安障害の一種である「対人恐怖症」として扱われることも少なくありません。

対人恐怖症は、他人との交流や接触に対して強い不安や恐怖を感じる状態のことです。ただし、恐怖や不安の対象が特定の場面や人物ではなく「人間全般」であることから、他人と接することを極力避けようとする傾向があります。

対して、社交不安障害は、特定の場面や人間関係において恥ずかしい思いをすることや、低く評価されることを極端に恐れます。恐怖や不安の対象が特定の状況や行動に限定されるため、必ずしも人間全般を避けるわけではありません。

このように、対人恐怖症と社交不安障害は忌避する対象が多少異なりますが、両者は関連が深く、症状や治療法でも重なる部分が多くあります。

あがり症や赤面症の原因

あがり症や赤面症の原因は、明らかになっていません。

しかし、社交不安障害については、交感神経の過度の緊張や、脳内における神経伝達物質のバランスの乱れなどが関係していると考えられています。社交不安障害の人は、特に脳内のセロトニン(恐怖や不安を和らげる働きのあるホルモン)の量が低下しているといわれています。

また、社交不安障害の発症には性格も関係していると考えられています。例えば、自分の失敗を許せない方や真面目な方が、失敗した経験をきっかけに社交不安障害を発症するケースも少なくありません。

そのほか、人間関係が複雑になりやすく、緊張・不安を感じやすい社会環境なども影響しているようです。

なお、対人恐怖症を発症した方については、人の顔を見たときに扁桃体が過剰に反応することがわかっています。
扁桃体が活発になると、抑え切れないほどの強い恐怖や不安を感じ、同時にその記憶が扁桃体に記憶されるため、負のフィードバックが起こりやすくなるといわれています。

どのような場合にあがり症や赤面症が疑われるのか

あがり症や赤面症などの診断は、おもに医師の問診で行ないます。診断時には、一つの症状だけではなく、以下のような複数の症状が継続して表れていないかを確認します。

・1つ以上の社交場面(例:雑談をする、面識のない人に会う、人前で飲食する)で症状が表れる
・ほとんど毎回同じ状況で症状が表れる・他人に否定的な評価をされることに恐怖を感じる
・上記のような状況を避けようとする。あるいは、恐怖や不安を感じながら耐えている
・感じる恐怖や不安が現実の危険と釣り合っていない
・恐怖や不安、社交的状況を回避しようとする状況が6ヵ月以上続いている
・恐怖や不安、社交的状況の回避が重大な苦痛を引き起こしている。あるいは、日常生活に大きな支障をきたしている
※DSM-5における社交不安障害の診断基準

なお、診断にあたっては、同じような症状を引き起こすほかの病気や精神疾患の有無なども確認しますが、これらが否定される場合は社交不安障害や対人恐怖症が疑われます。

あがり症や赤面症の治療法

あがり症や赤面症で日常生活に支障が生じている場合は、適切な治療が必要です。
症状の改善には、一般的に薬物治療と認知行動療法が併用されます。

薬物治療

薬物治療でよく使用されるのは、抗うつ薬や抗不安薬、βブロッカーなどです。

抗うつ薬にはさまざまな種類がありますが、社交不安障害などによく使われるのはセロトニンなどの神経伝達物質のバランスを整えるタイプのものです。気分が安定しやすくなるため不安感が軽減され、症状をコントロールしやすくなります。

強い恐怖や不安感が表れたときに備えて処方されるのが、抗不安薬です。抗不安薬は、中枢神経の興奮を抑えてリラックスした状態をもたらし、不安を和らげる効果があります。

βブロッカーは、交感神経に働きかけて血圧を下げる効果がある薬です。対人恐怖症の治療の際には、動悸や手の震えなどの物理的な症状に対してβブロッカーが処方されることもあります。

このように、薬物治療は症状の改善に役立つものであり、特に即効性のある抗不安薬やβブロッカーは、社交不安障害や対人恐怖症に悩む人にとって強い味方といえます。

しかし、薬物治療のみで根本的な恐怖や不安を取り除くことはできません。
そのため、社交不安障害などを克服するためには、薬を使わない治療を併用することがとても大切です。

認知行動療法

認知行動療法は、薬を使わずに社交不安障害や対人恐怖症を改善していく治療です。
恐怖や不安の発現につながりやすい考え方の傾向や状況の受け取り方、行動パターンを少しずつ変えていき、症状の改善を図っていきます。

認知行動療法によって考え方や行動のバランスが整ってくると、ストレスに対応する能力も高まってくるため、症状の再発防止にも役立つでしょう。
また、日常生活に支障が出るほどではないあがり症や赤面症も、認知行動療法で改善が期待できます。

認知行動療法の例

あがり症や赤面症の改善に役立つとされる認知行動療法はいくつかありますが、ここでは簡単に取り組みやすい例を紹介します。

会議などで一番前の席に座る

会議などで一番前の席に座るのは、とても勇気のいることです。
前の席に座ると、講師などに発言を求められるかもしれませんし、注目も集めます。後ろに座った人たちからの視線も気になるでしょう。

しかし、これをあえてやってみてください。一番前の席に座れば積極性が養われ、「場」に慣れる経験も積むことができます。成功体験にもつながりやすいため、トレーニングの一つとして取り組んでみてください。

自分以外の人に注意を向ける

自分に意識が向いていると、「顔が赤くなっていないか」「汗をかいていないか」といったことが気になってしまいます。そこで自分から意識をそらすために、他人やものに注意を向けてみましょう。

例えば、プロの画家やカメラマンになったつもりで、目の前の人物やものをじっくり観察してみてください。より良い作品を作るためには、姿形や色、バランスなどを細かくチェックしなければならないため、知らず知らずのうちに意識が自分からそれていきます。

不安や緊張を感じる場面を撮影して自分の状態を客観的に観察する

プレゼンテーション中の自分の姿など、不安や緊張を強く感じる場面を動画で撮影し、自分自身の状態を客観的に観察するのも良い方法です。

このとき、動画のなかの自分を「他人」だと思って観察してみると、自分が思っているほど赤面していないし汗もかいていない、体や声の震えも目立たないことに気が付くはずです。

自身のイメージとは異なり、実際の状況がそれほどひどくないことがわかれば、自分に対するネガティブな認識は修正されていくでしょう。

成功体験を増やす

赤面症対策としては、失敗しにくい環境を用意して成功体験を増やしていくのも効果的です。

対人恐怖症では、人間全般を避ける傾向があります。
そこで、話しやすい人や話しやすい人数、話しやすい環境を慎重に選び、実際にそのような環境で他人と交流を行なうことで、「顔が赤くならなかった」「少し赤くなったけれど、すぐに治まった」といった成功体験を少しずつ増やしていきます。

成功体験を積み重ねれば、人と接する場面での不安は少なくなるでしょう。また同時に、自分に自信が持てるようになるため、症状の克服につながりやすくなります。

まとめ

人前など緊張する場面で、あがったり赤面したりすることは誰にでもあることです。しかし、あがり症や赤面症で日常生活に支障が生じている場合は、適切な治療が必要になります。

社交不安障害や対人恐怖症の治療方法には、薬物治療や認知行動療法があります。ただし、薬物治療のみで社交不安障害や対人恐怖症を克服するのは難しいのが現状です。
一方、認知行動療法のなかには、日常生活に取り入れやすい方法もいくつかあるため、できるものから取り組んでみるのがよいでしょう。

とはいえ、社交不安障害は放置すると、うつ病やアルコール依存症をまねくこともあります。つらい症状が続く場合は、早めに医療機関で診察を受けるようにしましょう。

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