咳止めのツボはどこ?
咳を和らげる方法から薬の選び方まで
監修:斉藤 雅也
日本内科学会認定医/日本肝臓学会専門医/日本消化器病学会専門医/日本超音波医学会専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
夜に咳が止まらなくて眠れない、人前で咳き込むのが気まずい……。
そんなつらい咳に悩まされたとき、「ツボを押すと楽になるらしいけれど、どこを押せばいいの?」「セルフケアだけで様子を見ていいのかな」と迷う方も多いでしょう。
咳は、正しいツボの位置と押し方を知り、セルフケアや市販薬を上手に活用することで、つらさを和らげながら回復に向かうことができます。
この記事では、咳止めに効果的なツボの位置と押し方、ツボ以外のセルフケア方法、咳が治まるまでの目安、病院を受診すべきタイミング、市販薬の選び方などを紹介します。
咳止めのツボとは、指で刺激して咳の緩和を目指す場所のこと
「ツボ」は、東洋医学で古くから用いられてきた体の刺激ポイントです。
鍼灸やあんまなどツボを刺激する治療は中国で生まれましたが、あんまの手技が発展したものとされる指圧は日本が起源です。
鍼灸は鍼や灸で、指圧は指でツボを刺激して、咳やのどのケアに使われることもあります。
ツボの効果は世界的に認められており、2006年にはWHO(世界保健機関)によって361種類のツボの名称や位置が国際的に標準化されました。
ツボを押したときに痛みを感じる部位は、交感神経の興奮によって筋肉がこわばり、血流が悪くなって発痛物質が発生していることが明らかになっています。
ツボを刺激すると過剰な神経の興奮が抑えられ、痛みや不調が和らぐと考えられています。
ツボ押しは、鍼や灸と違って特別な道具を必要としません。自宅でも外出先でも思い立ったときにすぐ試せるので、セルフケアとして取り入れやすい方法といえます。
「この咳、何とかしたい…」我慢できないつらさには理由がある
なぜたくさん咳が出るのか、なぜ夜になると特につらくなるのか。咳のつらさには、体の仕組みによる理由があります。
咳が起こるメカニズムと、悪化しやすいタイミングを解説します。
咳が出る仕組み
咳は、気道に入った異物(ウイルスやほこりなど)を排除するために起こる体の防御反応です。気道にある咳受容体が刺激されると、情報が脳の咳中枢に伝わって咳が出ます。
気道の粘膜には、繊毛(せんもう)と呼ばれる細かい毛があり、粘液で覆われています。
粘液は、痰のもととなるものです。粘液が細菌やウイルス、ほこりなどを絡めとり、痰として排出される際にも、咳は起こります。
健康な人でも、急に冷たい空気を吸い込んだときやのどが乾燥したときに、気道の粘膜が刺激されて咳が出ることがあります。
咳は反射で起きる防御反応なので、自分の意思では止められません。
夜間や特定のタイミングで悪化しやすい理由
夜間に咳が出やすくなるのは、自律神経が関係しています。
自律神経には、日中の活動時に優位になる交感神経と、夜にリラックスしているときに優位になる副交感神経があります。
就寝時に咳が出やすくなるのは、副交感神経が優位になって筋肉が緩み、気管支が狭くなることが原因の一つです。
横になると鼻水などが気管に流れ込みやすくなること、夜と朝の寒暖差で気道粘膜が刺激されること、睡眠時の口呼吸でのどが乾燥することなども、咳の悪化要因になります。
今すぐ楽になりたい!咳止めに効果的なツボ5選
今すぐできるケアとして、咳に効果的とされる代表的な5つのツボを紹介します。
首や胸まわり、手や腕にあるツボで、いずれも自分の指で押して刺激できます。
首・胸まわりのツボ(天突・中府)
左右の鎖骨の間、のどの下にあるくぼみに位置するのが「天突(てんとつ)」というツボです。
人差し指の先をくぼみに軽く引っかけ、胸の中心へ向かって斜め下方向に押すと、のどまわりの緊張が和らぎ、痛みや咳が落ち着きやすくなるとされています。
「中府(ちゅうふ)」は、鎖骨の下、左右の腕の付け根近くにあるツボです。
鎖骨の下を外側へたどっていき、突き当たったくぼみから親指1本分ほど下がった位置にあります。
人差し指と中指を垂直に押し当て、呼吸に合わせてゆっくり刺激すると、息苦しさを和らげ、咳や痰の症状を改善する効果があるとされます。
手・腕のツボ(尺沢・孔最・列欠)
ひじを軽く曲げたときに内側に浮き出る太い腱の親指側で、しわの上にあるくぼみに位置するのが「尺沢(しゃくたく)」です。
尺沢は反対の手の親指で押しましょう。呼吸器の不調全般に用いられるツボで、のどの腫れや喘息にともなう咳などの緩和が期待できます。
ひじの内側の横じわと手首の内側の横じわの中間点から、指1~2本分ひじ側にずれた位置にあるのが「孔最(こうさい)」です。
刺激する際は、反対の手の親指を当て、腕の中心に向かって圧を加えます。少し痛みを感じるかもしれませんが、胸の辺りが軽くなる感覚が得られやすく、激しい咳き込みや長引く咳、のどの痛みをともなう咳などに向いているとされます。
「列欠(れっけつ)」は、手首の内側、親指側の出っ張った骨から指2本分ほどひじ側にあるツボです。
列欠は、手のひらを横に向けた状態で親指を当て、下方向に押しましょう。肺の機能を高めて呼吸を整える効果があるとされ、咳や息苦しさの解消に役立つと考えられています。
ツボ押しの効果を実感するための正しいやり方
ツボを押すなら、効果を実感しやすい方法で行いたいものです。
基本の押し方と、刺激する際に気を付けたいポイントを押さえておきましょう。
基本の押し方
押したときに鈍い痛み(圧痛)を感じる箇所(ツボ)を、押しやすい指で押しましょう。指の腹で5秒程度押して離すのを、3~5回繰り返します。
ゆっくりと、やや強めに圧をかけるのがポイントです。
押しすぎたり強くもんだりすると、腫れや痛みが出たり皮下出血を起こしたりする場合もあるので、注意しましょう。
家族など自分以外の人のツボを押す場合は、手のひらや親指を使いましょう。
ツボ押しで気を付けたいポイント
天突のすぐ下には気管があるので、力を入れすぎないよう注意しましょう。
高熱があるときや炎症・怪我がある部位のツボ押しは、症状の悪化をまねくおそれがあるためおすすめできません。
妊娠中の方は、ツボ押しをする前に医療機関を受診するか、鍼灸師に相談しましょう。
ツボ押しの効果には個人差があります。あくまで東洋医学の考え方に基づくセルフケアであることを理解したうえで、無理のない範囲で行いましょう。
ツボ押し以外にも!今日から試したい咳を和らげるセルフケア
ツボ押しだけに頼らず、日常生活でのセルフケアも併せて実践すると、咳の緩和につながります。
すぐに取り組める水分補給や加湿、姿勢や食事の工夫を紹介します。
水分補給と加湿でのどを守る
水分をこまめに摂ると、痰がやわらかくなって排出しやすくなります。
1~2時間おきにコップ1杯程度を目安に摂取するとよいでしょう。ただし、冷たい飲み物はのどへの刺激になるため、温かい飲み物のほうが向いています。
部屋の湿度を50~60%程度に保ち、乾燥による気道への刺激を和らげることも大切です。
姿勢・食事の工夫
座っているときに咳で苦しい場合は、上体を少し前に傾ける「起座位」で呼吸が楽になることがあります。
就寝時は、上体を少し起こす「半座位」や横向きの寝姿勢で症状が落ち着きやすくなるとされています。
また、辛いものや熱すぎる・冷たすぎる飲食物は、のどの粘膜を刺激するので避けるべきです。
咳が出ているときは、のど越しの良い温かい食事を選ぶようにしましょう。れんこん・大根・しょうが・はちみつなど、のどの調子を整えるとされている食材を摂るのもおすすめです。
はちみつは、スプーンにのせて舐める、温かい飲み物に混ぜて摂るといった方法が手軽です。
ただし、1歳未満の乳児がはちみつを食べると乳児ボツリヌス症にかかるリスクがあるため、与えないようにしましょう。
その咳、何日続いている?長引くときに考えておきたいこと
つらい状態がいつまで続くのか、見通しがつくと気持ちが落ち着きやすくなります。
風邪による咳の一般的な経過と、受診を検討すべきサインを確認していきましょう。
風邪による咳の一般的な経過
風邪が原因の急性の咳は、発症から3日以内にピークを越え、1~2週間程度で自然に改善することが多いとされています。
しかし、炎症が続き気道が敏感な状態になっていると、のどの痛みや発熱が治まったあとも咳が続く場合があります。
病院を受診すべきサイン
空咳(からせき:乾いた咳)が2~3週間以上続く場合は、一度医療機関を受診しましょう。
痰の色が黄色や緑色に変わってきた、38℃以上の熱が続く、息苦しさがあるなどの症状がある場合は、咳が続いている期間に関係なく医療機関を受診しましょう。
ただの風邪のようでも、咳喘息・マイコプラズマ肺炎・後鼻漏など別の病気が隠れている場合もあります。自己判断で長期間様子を見続けないようにしましょう。
夜も眠れないほどつらい咳には、市販薬という選択肢も
ツボ押しやセルフケアをしても咳が改善しない場合は、市販薬を使用するのも一つの方法です。
咳に関連する代表的な成分と、症状に合わせた選び方を紹介します。
咳にかかわる代表的な成分とその役割
市販薬には、咳中枢に働きかけて咳を鎮める「鎮咳成分」、痰を出しやすくする「去痰成分」、呼吸を楽にする「気管支拡張成分」など、目的に応じた成分が配合されています。
「咳が中心」なのか、「のどの痛みが中心」なのかによって選ぶべき薬が変わるため、購入時には症状に合う成分が配合されているかをしっかり確認しましょう。
症状に合わせた選び方と使用時の注意点
痰をともなわない空咳には鎮咳成分配合の製品を、痰が絡む湿った咳には去痰成分が配合されている製品を選ぶとよいでしょう。
のどの痛みをともなう場合は、抗炎症成分のトラネキサム酸やグリチルリチン酸などを含む製品が向いています。
総合感冒薬には、咳や痰を改善する成分に加えて、解熱鎮痛成分や鼻水を抑える抗ヒスタミン成分が配合されていることもあります。
抗ヒスタミン成分を服用すると眠気が生じる場合もあるので、自動車の運転や機械の操作は避けましょう。
数日間使用しても症状が改善しない場合は、服用を中止して医療機関を受診しましょう。迷う場合は、薬剤師や登録販売者に相談するのがおすすめです。
咳を繰り返さないために、今日からはじめたい予防習慣
同じつらさを繰り返さないためには、予防を意識した生活をすることが大切です。
すぐにはじめられる感染対策と、のど・気道を守る生活習慣を見ていきましょう。
感染対策の基本習慣
帰宅後の手洗い・うがいに加え、人混みではマスクを着用する習慣をつけましょう。
マスクは飛沫感染対策になるだけではなく、ほこりや冷気、アレルギーの原因物質の侵入を抑え、口の中の乾燥を和らげる働きもあります。
さらに、部屋の加湿を習慣にしておくと気道粘膜を乾燥から守りやすくなるので、咳の予防につながります。
のど・気道を守る生活習慣
のどや気道を感染症から守るには、睡眠リズムを整え、栄養バランスの良い食事を摂るなどして免疫力の維持につなげることが欠かせません。
声の使いすぎや喫煙、過度なアルコールは気道の粘膜や声帯を刺激するため、控えめにしましょう。
胸の筋肉のストレッチや腹式呼吸を意識して行うのも、つらい咳を和らげる助けになるといわれています。
咳止めのツボについてよくある質問3選
ツボ押しについて、やり方が合っているか、自分や家族が試しても大丈夫か、といった疑問にお答えします。
Q.ツボ押しは1日に何回、どのくらいの時間行えばいい?
A.1日に2~3回、指の腹で5秒ほど押してゆっくり離すのを3~5回繰り返しましょう。
「痛いほど強く押せば効く」というわけではありません。押す力が強すぎたり何度も押したりすると皮下出血や痛みにつながる場合があるため、心地よいと感じる程度にとどめましょう。
Q.子どもや高齢者にツボ押しをしても大丈夫?
A.子どもや高齢者は、皮膚が薄く骨も成人ほど強くありません。強い刺激は避け、軽く押す程度にします。
痛みや不快感を訴える場合はすぐに中止し、無理に続けないようにしましょう。
Q.妊娠中でもツボ押しをしても大丈夫?
A.妊娠中はツボ押しが体調に影響するおそれがあるので、医療機関を受診するか、鍼灸師、あんまマッサージ指圧師に相談してから行いましょう。
特に妊娠初期や切迫流産の既往がある場合は、自己判断でのツボ押しは避けるのが無難です。
まとめ:咳はツボ押しとセルフケアの積み重ねが和らげる近道
咳は体を守るための自然な反応ですが、つらいときは天突・中府・尺沢などのツボを押すと症状が和らぎやすくなります。
水分補給や加湿、姿勢の工夫などのセルフケアを取り入れることも大切です。
夜眠れないほど咳がひどい場合は、鎮咳成分や去痰成分が配合された市販薬を症状に合わせて活用するとよいでしょう。
なお、空咳が2~3週間以上続く、高熱や息苦しさをともなうなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
【この記事の監修者】
<名前>
斉藤 雅也(さいとう まさや)
<資格>
日本内科学会認定医/日本肝臓学会専門医/日本消化器病学会専門医/日本超音波医学会専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
<プロフィール>
神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行う。