
仕事中に生じる過度な緊張によって、求められる成果が出せなかった経験がある方も多いのではないでしょうか。そのような過度な緊張は、いくつかのほぐす方法を実践することで、自分で緩和させることも可能です。
この記事では、まず、「人はなぜ緊張するのか?」という疑問について、身体的なメカニズムから考えていきます。そのうえで、自分で実践できる緊張を和らげる方法と、仕事中の大切な場面で緊張してしまったときの対処法を見ていきましょう。
記事の後半では、心身のさまざまな不調につながる、「過緊張」について解説します。ビジネスシーンにおける過度な緊張に悩む方は、ぜひ参考にしてください。
人はなぜ緊張するのか?

緊張は、誰にでも起こりうる自然な反応です。人がどうして緊張するかは、自律神経のメカニズムに着目するとよくわかります。
自律神経とは?
自律神経とは、内臓や脳といった身体すべての活動を保つために、自分の意思とは関係なく24時間働き続ける神経の総称で、以下の2つに分けられます。
交感神経
脳や身体が活発に活動するときや昼間に優位になる神経系
副交感神経
安静時や夜間などリラックスしているときに優位になる神経系
普段の交感神経と副交感神経は、互いにバランスを取りながら体内環境を一定の範囲内に保つように機能しています。
ただ、そこで不安やストレスなどを感じた場合、交感神経が優位になることで緊張状態が長引いてしまい、自律神経のバランスが崩れやすくなります。
その際、以下のような反応が出るケースがあります。
体に起こる反応
- 肩こり、首こりなど筋緊張が高まる。
- 脈拍が早くなったり、発汗がおこる。
- イライラや不安が高まる。
- 胃腸の動きが抑制され、食欲がわかない。
- 頭痛や耳鳴りなどを感じやすくなる。
- 寝つきが悪く、熟睡できない。
など
なお、緊張症状には個人差があります。
ビジネスシーンでは、まったく緊張をしていないように見える人もいるかもしれません。ただ、そういう人は、緊張を周囲に感じさせていないだけで、実際は、手に汗をかいたりしていることがあります。一般的には、どのような人でも少なからず不安や緊張を感じることがあると考えられています。
適度な緊張は、生き物にもともと備わっている本能的な機能です。ビジネスシーンでも、適度な緊張によって集中力や注意力が高まり、結果的に仕事のパフォーマンス向上につながる場合があります。ただし、過度な緊張はパフォーマンスを下げる原因になります。また、先述のように身体に悪影響を与える可能性もあるため、過度な緊張は早めにほぐすことが大切です。
過緊張
交感神経が過剰に優位になった状態を、「過緊張」と呼びます。過緊張については、記事の後半で詳しく解説します。
自分でできる緊張を和らげる方法

「緊張しているかも……」と感じたときには、自分で対処して和らげることが可能です。この章では、緊張を和らげるセルフケアを紹介します。
深呼吸をする
緊張状態に陥った場合、心臓や肺などの働きが活発になります。そこでよく起こるのが、呼吸が浅くなる症状です。呼吸が浅くなると、交感神経がさらに優位になり、緊張状態が悪化しやすくなります。
この悪循環から脱するためには、緊張する場面などで深呼吸をすることがおすすめです。「吸う時間」よりも「吐く時間」をやや長めにとると、深い呼吸になりやすいようです。何回か繰り返すことで副交感神経が優位になり、自律神経のバランスも整いやすくなるでしょう。
運動などをして身体を動かす
緊張をほぐし自律神経のバランスを整えるには、以下のような適度な運動もおすすめです。
おすすめの運動
- ウォーキング
- 軽めのジョギング
- 軽めのスクワット
- ラジオ体操
- ストレッチ
オフィスなどで運動ができない場合、ガムを噛んで口を動かすのも一つの方法です。噛む行為自体は、メジャーリーグの選手たちが試合中によくガムを噛んでいるように、大切な場に臨むなどの興奮時に副交感神経を刺激し、逆に交感神経の興奮を抑える方向に働くことが研究※でわかっています。
※出典:宮澤ら 教育医学 62(2)336-345.2016
好きな音楽を聴いたり、香りを嗅いでリラックスしたりする
不安で緊張しているときには、自分の好きな音楽を聴くのもおすすめです。できればゆったりした長調(明るい響きの曲)の音楽を選ぶと、よりリラックスを高める効果が期待できます。この方法は、試合前に心身のバランスを整えるため、スポーツ選手などでもよく実践されているものです。
また、自分が好きな香りにも、音楽に似た緊張をほぐす効果があるとされています。好きな香水を吹きつけたハンカチを持ち歩き、緊張しそうなときに嗅いでみてもよいでしょう。
成功した自分の姿を想像する
緊張しやすい人は、無意識に「また失敗するのではないか」などと、自分自身にネガティブな自己暗示をかけがちです。
この自己暗示の解消には、普段から「自分が目標を達成して成功した姿」を映像や文章などで具体的にイメージしたり、「私は◯◯できる」「私は守られている」などのポジティブな言葉を言ったりするような習慣を付けることがおすすめです。こうした習慣を続けると、ネガティブイメージに支配されにくくなり、過剰な緊張を抑制する効果が期待できます。
事前準備をしっかりする
成功した姿のイメージやポジティブな自己暗示の効果を高めるには、成果を確実に出せるだけの練習・準備を徹底することが前提です。
プレゼンテーション内容などに自信がないと、「明日失敗するかも……」などのネガティブな気持ちから緊張もしやすくなります。こうした悪循環を防ぐためには、やはり準備や練習をしっかり行ない、自信をつけることも大切です。
例えば、「これ以上、練習しようがない」「やれることはすべてやった!」と思えるところまで練習を繰り返せば、自分が失敗するようなネガティブなイメージや緊張も起こりにくくなるでしょう。また、練習の成果を発揮するためには、前日にはしっかり睡眠をとっておくことも大切です。睡眠不足では、集中力が下がりパフォーマンスが低下することが、研究によって明らかになっています。
仕事中の大事な場面で緊張してしまったときの対処法

人によっては、いくら入念な準備や対策を行なっても、大事なシーンに直面するとやはり緊張してしまうことがあるかもしれません。そんなときには、これから紹介する対処法を実践し、緊張による悪循環を少しでも抑えましょう。
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相手に緊張していることを伝える
自分の緊張を隠すために無理に平静を装ったりすると、「緊張をうまく隠せているかな?」などの不安から、緊張がさらに強くなります。また、緊張を隠すことに意識が向きすぎると、プレゼンテーションや商談といった本来やるべき仕事のパフォーマンスにも支障が出る可能性があります。
そこでおすすめしたいのは、「自分は緊張している」ということを相手に伝えてしまう方法です。「緊張しているので、もし声が聞き取りにくかったら言ってくださいね」などと自分の状態を言葉にして相手に伝えると、「いま緊張していること」が共通認識となり、必死に隠す必要がなくなります。
隠すことへの意識から解放されると、落ち着きも取り戻しやすくなります。
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腹式呼吸をする
先述のとおり、深呼吸をすると、副交感神経の優位性が高まり自律神経のバランスが整います。また、緊張や興奮が和らぎ、身体に入っていた力が抜けることで、リラックスしやすくなるでしょう。
なお、私たちが無意識で行なっている胸式呼吸は、浅く短い呼吸になりがちです。胸式呼吸には、交感神経を優位にしてしまう特徴もあります。緊張から解放されたいときには、お腹を意識して膨らませる腹式呼吸を実践したほうがよいでしょう。
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背中や首周りを動かす
周りに人がいない休憩室などのスペースがある場合、簡単なストレッチで身体を伸ばしてみましょう。なかでも特におすすめなのは、自律神経と大きなかかわりのある「背中」「首周り」を伸ばすストレッチです。
例えば、椅子に浅めに座り、両手を組んで天井に突き上げる「背筋のストレッチ」は、背中を伸ばし、自律神経のバランスを整いやすくします。
人目が気になる場合は、深呼吸を何度かしたのちに首や肩をゆっくりと回す、足指をグーパーするなどの簡単な動作もおすすめです。
ここまで紹介した方法は、主に短期的な緊張を解消する方法ですが、ストレスが長引き、心身の緊張状態が長期間続いてしまうと、自律神経系の乱れが本格化していき、「過緊張」になる可能性があります。その場合、カウンセラーや産業医などの専門家に相談することも視野に入れたほうが良いかもしれません。
ここからは、「過緊張」を簡単に紹介していきます。
過緊張とはどのような状態か
過緊張とは、交感神経の過剰な緊張によって、自律神経のバランスが崩れ続けている状態です。
適度な緊張には、先述のとおり仕事の集中力や判断力などのパフォーマンスを向上させる効果があります。決して緊張自体が悪いわけではありません。
しかし、過度な緊張状態が長く続いた場合、リラックスをつかさどる副交感神経の働きが継続的に弱まることで、精神面や身体面にさまざまな不調が引き起こされることになります。
過緊張の原因とは?

過緊張は、ストレスによって交感神経が過度に興奮することで起こります。ここでいうストレスの正体は、「変化」のことです。
多くの人は、“ストレス”という言葉に対して、解消しなければならない課題や失敗などのネガティブなものを想像すると思います。しかし、過緊張の原因となるストレスは、日常生活に多く潜んでいる「変化」全般です。
過緊張は、以下のような変化(ポジティブまたはネガティブな変化)が、度重なったり長引いたりし、過度な緊張状態が続くことで起こりやすくなります。
ポジティブな変化
- 職場環境の変化(昇進、転勤、部署異動、働き方や仕事内容の変化など)
- 自分や家族の結婚
- 自分や家族の入学、卒業、転校、受験
- 自分や家族の妊娠、出産、育児
- 住まいの変化(リフォーム、新築、引越し)
- 生活習慣や行動の変化(禁酒、禁煙、ダイエット、食生活の変化)
- 季節や気温の変化
など
ネガティブな変化
- 人間関係のトラブル
- 配偶者・親族・友人知人の死
- 自分や家族の病気、ケガ
- 自分や家族の失業、転職、退職
- 自分や家族の離婚
など
私たちの日常生活は、変化の連続といっても過言ではありません。そう考えると、過緊張の原因になるストレスも、完全に排除できるものではないでしょう。現代人には、仕事や人間関係におけるさまざまなストレスから、過緊張に陥りやすい傾向があります。
過緊張になりやすい人の特徴
以下のような人は、過緊張に陥りやすい傾向があります。それぞれの特徴を簡単に見ていきましょう。
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完璧主義である
完璧主義とは、常に完璧を求めてしまうことです。言い換えれば、ミスや失敗を著しく恐れる気質でしょう。完璧であり続けるために必要以上の頑張りを続けることで、過緊張に陥りやすくなります。
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緊張状態が続くような仕事をしている
長時間の集中力が求められる職業や、責任の大きな役割を担っている場合、気持ちをリラックスする時間がなかなかとれず、自宅に帰っても交感神経の優位な状態が続きやすくなります。
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真面目すぎる
真面目すぎる人には、いい加減なところがありません。真面目さが過剰になると、自他のいい加減さが許せなくなり、完璧主義に近い状態に陥ります。
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HSPの気質がある
HSP(Highly Sensitive Person)とは、五感などの感覚が敏感で刺激を受けやすい特性を持つ人のことです。刺激に強く反応することで、不安やストレスから過緊張に陥りやすくなります。
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強いネガティブ思考である
強いネガティブ思考の場合、大事な場面に遭遇するたびに「失敗したらどうしよう……」「自分には難しいかも……」など不安が生じることで、緊張状態が続きやすくなります。
過緊張が引き起こす主な症状

ストレスの原因は多岐にわたります。また、ちょっとした出来事がきっかけで、ストレスを強く感じる場合も少なくありません。しかし、ストレスを放置すると、心や体、行動にも悪影響がおよびます。病気や重大な事故などを防ぐためにも、こまめにストレスを発散するように心がけましょう。
過緊張に陥ると、精神面や身体面に様々な不調が現れます。具体的な症状は個人差がありますが、長引くストレスから過緊張が悪化する過程では以下のような不調を訴える人が多く見られます。
過緊張で現れる不調
- 動悸、息苦しさ、めまいを感じる
- 肩こりや首こりが悪化し、頭痛や吐き気が起こる
- 不安やイライラがひどくなり、感情が不安定になる
- 胃腸の動きが悪化し、ひどい便秘や下痢、胃もたれなどが起こる
- 寝つきが悪い、夜中に何度も起きるなど不眠症状が出る
など
また、明確な身体症状とは少し異なりますが、長く続く以下のような問題や悩みからも、過緊張が誘発され本格的な治療が必要になる場合もあります。
過緊張が誘発される問題・悩み
- 帰宅後も仕事のことを考えてしまい、落ち着けない……
- 上司やお客様から言われた言葉などが、頭から離れない……
- 仕事に行くことに不安やプレッシャーを感じ、朝がつらい……
- 気になることがあって熟睡できず、疲れがなかなかとれない……
など
こうした問題が続くと、身体にさまざまな悪影響が起こる可能性もあります。普段から緊張をほぐすことを意識して、うまく生活に取り入れてみましょう。また心身の不調が2週間以上続く場合には、産業医や心療内科、精神科医などに相談してみましょう。
まとめ
今回紹介した以下の方法で緊張を和らげると、仕事中のパフォーマンスを維持しやすくなります。
- 深呼吸を意識して行なう
- 運動などで身体をほどよく動かす
- 好きな音楽を聴いたり、香りを嗅いだりしてリラックスを心掛ける
- 成功した自分の姿を普段から具体的に想像する
- 事前準備をしっかりする
ただ、自分でコントロールできない緊張が続き「過緊張」に陥っている場合は、上記のような方法だけでなく、医療分野の専門家にも早めに相談しましょう。