現代人は心と脳が疲れている
瞑想を説明する前に心と脳の疲れについてお話ししましょう。スマートフォンの普及でニュース速報やSNSなど、様々な情報に四六時中さらされるようになりました。このように情報があふれている状態では、常にその情報を処理しなければならず、心や脳が休まる暇がありません。また、仕事では複数のタスクを同時に処理するマルチタスクが当たり前になっています。これでは心や脳がどんどん疲れていってしまいます。
さらに、歩きスマホに代表される「ながら行動」も心と脳を疲れさせます。その疲れに気づかず疲労が蓄積すると、集中力が続かなかったり、やる気が低下したりするリスクが高まります。中には、頭痛や肩こりなどの身体症状が出ることもあります。現代人は心や脳が疲れやすい環境にさらされているといえます。
瞑想が心身の不調を改善する
心と脳の疲れをとる方法の一つとして、自分の身体の感覚に注意を向け観察する“瞑想”があります。瞑想では、脳を一旦リセットすることで心身を健康に保つことができます。例えば、触覚に意識を集中させることで猫や犬をなでた時に毛並みや体温、鼓動を感じられます。
また、嗅覚や味覚に集中することでコーヒーの香りを楽しんだり、苦みや酸味、甘味などを深く味わったりできます。この感覚が分かるようになると、マルチタスクで疲れた心と脳が癒されて整い、自分自身のことがよく見えるようになって、ありのままの自分を受け入れることができるようになるでしょう。また、心理的な不安や緊張が原因で生じる頭痛・肩こりなどの症状が緩和されることも期待できます。つまり、瞑想で自分自身の不調に気づき、改善することができるのです。さらには、自分の心が整うことで他者に対しても広い心で接することができ、対人関係にもプラスの変化をもたらしてくれます。瞑想を続けていくと愛情に関わる部位(右脳の内側眼窩前頭皮質)が活性化し、人に対する思いやりはもちろん、自分自身への優しさを育むことにもつながると考えられます。日常の中でもできる瞑想(すき間瞑想)をいくつか紹介します。気軽に実践してみてください。
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呼吸瞑想
- ①両足を少し開き、椅子に座る。頭が一本の糸で吊られているようなイメージで軽く背筋を伸ばす。
- ②3回ほど大きく深呼吸する。空気を胸いっぱいに吸い込み、自然に吐き出す。
- ③鼻を出たり入ったりする空気の流れを鼻先のあたりで感じる。
深呼吸のあとは、ありのままの呼吸を感じるようにします。呼吸をただ観察・眺める感覚がコツです。
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歩く瞑想
- ①普段通りのスピードで歩く。
- ②右、左、右、左と足裏の感覚に注意を向ける。
歩いている足の感覚を後から追いかけるイメージで行なうのがコツです。歩く瞑想は、うつの低減やメタボリック症候群に対する効果も認められています。
※歩く瞑想は周囲の安全が十分に確保された場所でおこなってください。
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食べる瞑想
- ①レーズンをつまみ、色、形、つや、しわなどをよく観察し、食べたらどんな味がするかイメージする。
- ②目を閉じてレーズンの香りを嗅ぐ。
- ③レーズンを口に入れ、噛まずに舌の上で転がして味や形を感じる。
- ④ゆっくりと噛んで、味や香りを十分に感じてから、飲み込む。レーズンが喉を通り、胃に落ちていく様子も感じる。
食べる瞑想には、少ない量でも満足感が得られるという利点があり、ダイエットにも最適です。また、糖尿病が改善され、血糖コントロールがよくなったという報告もあります。
※ここでは、例としてレーズンを使用しています。
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お風呂瞑想
- ①浴槽に浸かり、手足や体の芯がゆっくり温まってくる感覚を丁寧に感じる。
- ②シャワーの際はよく泡立てた泡で、体に泡があたる感覚や汚れが落ちていく感覚を意識して丁寧に洗う。
- ③お湯の温かさに意識を向けながら洗い流す。
お風呂瞑想で体をきれいにする行為が、自分自身への優しさを育むことにもつながっていきます。
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公園瞑想
- ①公園のベンチに座り、人の声や小鳥のさえずりなど、たくさんの音の中からひとつだけの音に意識を向ける。
- ②今度は聞こえてくる様々な音を全体として聴くようにして、音の世界の中に自分がいることを全身で感じる。
こうした「聴く瞑想」は、医療現場でも不安障害などの治療として活用されています。ベランダやお庭など、自然に近い場所なら公園以外でもOKです。