使われている製品や様々な特徴を解説
甘草(カンゾウ)は、日常的に用いられる薬用植物の一つです。漢方薬や甘味料、化粧品など様々な製品に使用されていますが、どのような効能があるのか気になる方もいるでしょう。
甘草には滋養強壮作用など幅広い効能があるといわれていますが、甘草を含む漢方薬や医薬品、一般用医薬品を服用した場合に高血圧や手足のこわばりなどの副作用が生じる可能性があるため、摂り過ぎに気をつけることが大切です。1)
本記事では、甘草の特徴や甘草エキスの製造方法、世界における甘草の歴史などを解説します。甘草にどのような特徴があるのか、どのように使用されているのかが気になる方は、ぜひ最後までご覧ください。
はじめに、甘草の概要や甘草が使用されている製品、甘草の過剰摂取により起こり得る症状などについて解説します。
甘草(カンゾウ)は、マメ科・カンゾウ属の薬用植物です。高さ30~80 cmほどの多年草であり、大きな根茎が特徴です。中国東北部から南ヨーロッパまでの乾燥地に広く分布しています1)。薬や食用として用いられてきた歴史があり、古代から現代にいたるまで世界中の様々な地域で親しまれています。
生薬として使う場合は、根や茎を乾燥させてから使用します。一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省) の約70%に使用されている重要な植物であり、そのほかの生薬と良く調和することから、使用頻度が高くなっています1)。
また、甘草という名のとおり、噛むと甘く感じる点も特徴の一つです。甘草には砂糖より50~200倍も甘いといわれるグリチルリチン酸が多く含まれており、甘味料として用いられることも少なくありません。
日本では、甘草は食品などの甘味料や化粧品の成分として多く用いられています。砂糖より甘味が強いにも関わらず低カロリーという特徴から、ダイエット食品にも利用されています。
甘草は生薬としても利用されています。甘草の作用については後述しますが、甘草の作用をより手軽に活かすなら、ハーブティーとして摂取するのがおすすめです。ほかのハーブとのブレンドを楽しみながら、日常に甘草を取り入れてみてはいかがでしょうか。
とみなされる処方などに配合されています。
様々な製品に使用されている甘草ですが、日本では多くを海外からの輸入に頼っています4)。甘草の安定供給のため、日本でも甘草を生産するための技術開発が進められています5)。
良い作用の多い甘草ですが、摂りすぎると身体に悪い影響を与えてしまう場合があります。甘草は多くの食品などに使用されているため、気づかぬうちに摂取量が多くなってしまう可能性もあるため注意しましょう。
甘草の代表的な副作用は「偽アルドステロン症」です。甘草を含む漢方薬などを摂取すると発症する可能性があります。初期段階では、手足の力が抜ける、手足のこわばり、高血圧、むくみ、頭痛などの症状が表れます。症状を放置すると不整脈が起きる場合もあるため、気になる症状があればすぐに医療機関を受診しましょう6)。
甘草を多く摂取した場合だけでなく、1~2g/日(グリチルリチン酸として40~80 mg/日)の摂取で副作用が起こった例も報告されています7)。発症のしやすさは個人差がありますので、複数の漢方薬を服用する場合や甘草の服用が長期におよぶ場合などには医師、薬剤師または登録販売者に相談しましょう。
甘草に含まれる成分を効果的に使うために、甘草はしばしば甘草エキスに加工されます。甘草エキスの製造方法について、一例を紹介します。
各工程の概要を簡単にみていきましょう。
生薬に利用されるのは、甘草の根の部分です。有効成分を浸出させやすくするため細かく砕かれます。
甘草の根は絡まり合っているため、粉砕前に根を丁寧にほぐす作業が必要です。ほぐした甘草は粉砕され、小枝状、さらには繊維状になります。細かく粉砕された甘草は抽出タンクへ送られ、抽出の工程に移ります。
繊維状になった甘草に水を加えて攪拌(かくはん)したあと、静置してエキスを抽出します。その後、ろ過して残渣(ざんさ)を取り除き、残渣は土壌改良などに活用します。
抽出した甘草エキスを、蒸発缶に通します。段階的に減圧しながら加熱することで余計な水分を飛ばし、エキスを濃縮させる工程です。
エキスにエタノールを加えて攪拌し静置します。これによりタンパク質などの不純物が沈殿します。沈殿したタンパク質などの不純物を取り除くと、甘草エキスの純度を高めることが可能です。
精製したエキスを用途に応じて液体、または粉末にして製品化する工程です。液体の場合は再度濃縮し、クリーンルーム内で充填します。粉末の場合は液体を熱風乾燥して粉末化しクリーンルーム内で充填します。
充填されたエキスは様々な用途に使用されます。
薬用や食用として有用な甘草は、日本のみならず、世界中で使用されてきました。その歴史は古代までさかのぼり、甘草が人々の生活に深く根づいていることがうかがえます。
日本へは、奈良時代に中国より伝わり、次第に生活に浸透していきました。奈良県にある正倉院には、当時の甘草が現在も保存されています。江戸時代には幕府の保護のもとで甘草栽培が行なわれ、幕府に納められていました。山梨県甲州市(旧塩山市)には甘草を幕府に納めていた旧高野家住宅(甘草屋敷)が現存しており、日本での甘草の歴史が連綿と受け継がれています8)。
世界に目をむけると、古くはエジプトのツタンカーメン王の墓(紀元前14世紀)に甘草が納められていました。また、現代医学につながる世界最古の医書といわれる古代ギリシャの『ヒポクラテス全集』(紀元前5世紀頃)や中国最古の医薬書のひとつ『神農本草経』(1~3世紀)に甘草についての記載があり、古くからその効能や有用性が知られていたと考えられます。
中国では、甘草を別称「国老(こくろう)」と呼びます。国家老=「守りの要」という意味で使われてきました。生薬で、他に別称をもっているものは少なく、大黄(だいおう)を「将軍」と呼ぶことがある程度です。また漢方薬は、いくつかの生薬を組み合わせて用いるのが原則ですが、この甘草と大黄、人参は単独で用いられることがあります。それぞれ「甘草湯(かんぞうとう)」、「将軍湯(しょうぐんとう)」、「独参湯(どくじんとう)」という名前がつけられています。
「甘草湯」という処方は、紀元2世紀頃にできたと考えられている『傷寒論』という文献に記載されているものです。喉の痛みに使う処方ですが、あまり激しくない喉の痛みにうがい薬として用いると効果があり、口内炎の痛みにも応用できます。
江戸時代の 医学書『叢桂亭医事小言』によると、原南陽という医師は、この甘草湯を「忘憂湯(ぼうゆうとう)」と名づけ、急性の痛みや炎症を和らげる効果があるとされ、外用・内服の両面から治療に用いていました。
甘草には幅広い特徴があり、漢方をはじめとした様々な医薬品に使用されています。また、特有の甘さから甘味料として用いられたり、カロリーの低さからダイエット食品に活用されたりしている点も特徴です。
様々なメリットがある甘草は、広く世界中で用いられてきました。歴史も古く、古代エジプトや古代ギリシャなどの時代にはすでに一部の効用が発見され、医学書にも記載されています。
甘草は日々の生活に深く根ざした薬用植物です。用法・用量を守り、甘草を効果的に生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
- 日本大衆薬工業協会 「改訂版 汎用生薬便覧」 生薬製品委員会 生薬文献調査部会 2004年
- 東京都保険医療局 食品衛生の窓 たべもの安全情報館より
- 厚生労働省医薬・生活衛生局 「一般用漢方製剤製造販売承認基準」 2017年
- 山本ら 「原料生薬使用量等調査報告(8)―2008年度~2022年度の使用量―」
生薬学雑誌 79巻1号, 18-62, 2025年- 農林水産省委託プロジェクト研究「薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発」
薬用作物コンソーシアム「薬用作物栽培の手引き~薬用作物の国内生産拡大に向けて~カンゾウ編」2021年- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症」
2006年(2022年改定)- 森本ら「甘草製剤による偽アルドステロン症のわが国における現状」
和漢医薬学会誌 8巻, 1-22, 1991年- 甲州市甘草活用研究会 「甘草ものがたり 甘草のことがわかる本」 2020年