「何だかのどが痛い」「鼻水が止まらない」といった「風邪」の症状は、誰しも経験があるものではないでしょうか。しかし実際にはどのような病気で、何が原因で発症するのかなど、わからないことも多々あるでしょう。
この記事では、風邪の症状や対処法、重症化した場合に注意すべきことなどをまとめています。日々の生活で実践できる予防法も紹介していますので、ぜひ日頃の健康維持にお役立てください。
「風邪」とは医学的には「風邪症候群」といい、くしゃみや鼻水、せき、のどの痛みなど呼吸器に現れる症状をまとめた病気のことを言います。症状の程度は様々ですが、自然に治ることが一般的です。
それではなぜ「風邪は万病のもと」といわれるのでしょうか。「風邪は万病のもと」とは、風邪を軽く見て放置すると、様々な病気に繋がる可能性があるという意味です。風邪自体は一見すると軽い病気のように思えますが、体力や免疫力が低下しているときにかかると、ほかの病気を引き起こすきっかけになることがあります。つまり、ほかの病気の始まりだったということもあるので、「ただの風邪」と油断せず体の変化に注意を向けましょうという警告の意味も込められているのです。
風邪によって現れる様々な症状と、主な原因について確認しておきましょう。
風邪をひいたときによく見られる症状を以下にまとめました。
部位 | 症状 |
---|---|
全身 | 発熱・悪寒 |
頭 | 頭痛 |
鼻 | 鼻水・鼻づまり・くしゃみ |
のど | せき・たん・のどの痛み |
おなか | 嘔吐・下痢・腹痛 |
通常、風邪の症状はウイルスに感染してから、1日から3日ほどで現れ始めます。その多くは数日から1週間程度で自然と回復に向かいますが、もし症状が長引くようであれば、別の病気であることや細菌の二次感染などによる合併症の可能性が考えられます。
風邪の原因で圧倒的に多いのは、ウイルスです。ウイルスの種類によっては流行しやすい時期があり、季節によって原因となるウイルスに違いが見られることがあります。
また、風邪がきっかけで、中耳炎や副鼻腔炎、肺炎、髄膜炎、脳炎などの重い合併症を起こすこともあるため、症状の変化には注意が必要です。なお、新型コロナウイルスによる感染症の流行後は、季節性があまり明確ではなくなってきています。
流行時期 | ウイルス名(カッコ内は主な感染症) | 主な症状 | |
---|---|---|---|
春・秋 | ライノウイルス | せき・のどの痛み・鼻水・鼻づまりなど | |
夏 | アデノウイルス(咽頭結膜熱) | 発熱・のどの痛み・目の充血 | |
エンテロウイルス | (ヘルパンギーナ) | のどの痛み・発熱 | |
(手足口病) | 発疹・発熱 | ||
冬 | コロナウイルス | 鼻水・鼻づまり・せき・発熱など | |
RSウイルス | せき・発熱 | ||
インフルエンザウイルス | 悪寒・高熱・関節痛・筋肉痛 | ||
ノロウイルス(感染性胃腸炎) | 下痢・嘔吐・腹痛・脱水 | ||
ロタウイルス(感染症胃腸炎) |
※新生児・乳幼児・高齢者・重症化リスクが高いと医師が判断する人(基礎疾患を持つ人)などは肺炎や気管支炎に注意が必要
ウイルスは空気中に広く、長時間にわたって漂い続けることは少なく、エアロゾルとなって空気中に漂うウイルスを直接吸い込むいわゆる「空気感染」の割合はそれほど多くありません。最も多く、注意したいのは「飛沫感染」です。接触感染は飛沫感染ほど多くはありませんが、要注意です。
飛沫感染は、感染した人のせきやくしゃみにより比較的近距離(1~2メートル)に飛び散った飛沫(ウイルスを含んだ(微細な)唾液)を周りの人が吸い込むなどして、粘膜や結膜に付着することで起こります。
一方、接触感染は、感染者の鼻水や唾液などの分泌物に直接または間接的に触れることで、ウイルスが体内に入り込み感染します。
空気感染 空気中のウイルスを吸い込んで感染
はしか、水疱瘡、結核
など限られている
飛沫感染
"せき"や"つば"などに混ざった
ウイルスを吸い込んで感染
インフルエンザ、マイコプラズマなど多くの呼吸器の感染症
接触感染 ウイルスに直接触ることで感染
ノロウイルス、かぜウイルス、
エンテロウイルスなど
媒介感染 飲食物や動物、昆虫などを介して感染
ノロウイルス、狂犬病、
日本脳炎、デング熱など
出典:「かぜと新型インフルエンザの基礎知識」(岡部信彦著、少年写真新聞社)より一部改変
※新型コロナウイルス感染症では、飛沫感染より広い範囲に感染が及ぶ「エアロゾル感染」があるところから、最近WHO(世界保健機関)では、「エアロゾル」と「飛沫」の区別をやめ、感染性呼吸器粒子 (Infectious Respiratory Particles, IRPs)と称する新しい概念を提唱しています。
もし、風邪をひいてしまったと感じたら、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、大切な4つのポイントをお伝えします。
東洋・西洋医学ともに、風邪の治療において重要視されているのが、安静にしてしっかり眠ることです。疲れた体を回復するとともに、体力を消耗しないためにも、できるだけ体を休ませましょう。
もし、せきや鼻水などの症状でなかなか眠れない場合は早めに、「風邪薬」を服用し、症状をやわらげるのも一つの方法です。
風邪をひいたときに体を温める効果がある食材を意識的に摂り、バランスのとれた食事を心掛けましょう。体力の回復や免疫機能の低下を防ぐ効果などが期待できます。
また、水分補給は重要です。水分が不足すると、脱水症状が生じ、症状が悪化するリスクが高まります。1日に合計1.5~2Lほどを目安に、1~2時間おきにコップ1杯程度を常温で摂るといいでしょう。脱水症状を防ぐとともに、症状の悪化を抑える効果が期待できます。
市販の風邪薬は、病原体を排除してくれるわけではなく、現れている症状をやわらげるための「対症療法」の薬です。体調をよく観察しながら、症状や飲みやすさで自分に合うものを選ぶとよいでしょう。薬局・薬店では薬剤師に相談するとよいでしょう。
鼻水や鼻づまり、くしゃみが主な症状であれば、炎症を引き起こすヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン成分が含まれている薬が効果的です。また、のどの痛みにはトラネキサム酸やアズレンスルホン酸ナトリウム、セチルピリジニウム塩化物水和物、あるいは漢方エキスを配合したトローチやのどスプレーなどが有効です。なお小児では、抗ヒスタミン薬が有効ではない場合や、好ましくない症状が現れる場合もあるため、これらの購入時には薬剤師に相談するとよいでしょう。
風邪の症状がひどかったり長引いたりする場合は、細菌による二次感染やアレルギー疾患を発症している、あるいは風邪ではない他の疾患にかかっている場合もあるので、自己判断せずに、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
妊娠中に風邪をひいた場合は、市販薬に含まれる成分のなかには妊婦にとって注意が必要なものもあるため、自己判断で薬を飲むことは避け、必ず医師・薬剤師に相談し指示にしたがって服用しましょう。
風邪をひかないためには、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。ここでは、日頃の生活に取り入れやすい5つの予防法をご紹介します。
ウイルスが侵入しやすい口や鼻へのバリアの役割を担うマスクは、飛沫感染を予防するのに重要です。また、のどの乾燥を防ぎ、粘膜や線毛の働きを助けてウイルスの侵入を防ぐ効果も期待できます。飛沫感染を防ぐだけでなく、自分が保有するウイルスを周囲の人にうつしてしまうのを防ぐ点でも有用です(せきエチケット)。
いろいろな物に触れる機会が多い「手」は、病原体にも触れやすい部分です。そのため、手を清潔に保つことは感染症予防の基本となります。
手をしっかり洗うには石けんを使うのが効果的ですが、石けんで手が荒れやすい人や、石けんが使えない状況では、水で手のすみずみまで丁寧にこすり洗いすることでも効果があります。
水うがいには、ウイルスを洗い流す、病原体の力を弱める、口の中を清潔にして湿り気を与えるなどの効果があります。効果的なうがいの方法は以下を参考にしてください。
感染症を予防するには、以下3つを基本として意識しましょう。
食事や睡眠に気を付けるとともに、適度な運動で風邪に負けない体力を付けましょう。ジョギングや水泳のようにハードでなくても、ウォーキングやヨガなども良い運動になります。
子どもには、外で元気に遊び、おなかが空いたらしっかり食事を摂り、ほどよく疲れてぐっすり眠るという生活リズムを身に付けさせましょう。こうした習慣を続けることで体が丈夫になり、感染症に対する抵抗力も高まります。
室内は暑すぎず、寒すぎない快適な温度を保ち、感染しにくい環境を整えましょう。また、湿度の低い冬場は乾燥にともない鼻やのどの粘液が少なくなって体の防御機能が低下し、ウイルスへの感染リスクが高まります。加湿器などで乾燥を防ぎ、換気も忘れないようにしてください。
加湿器に水を継ぎ足す際は、容器内に菌が繁殖しないよう、容器をよく洗ってから水を足しましょう。
風邪には、いわゆる「おなかの風邪」といわれる感染性胃腸炎があります。ここでは感染性胃腸炎の原因や症状、かかった際に注意すべきことを解説します。
主な原因となるのは、ノロウイルスやロタウイルスです。嘔吐・下痢といった症状が中心で、発熱や腹痛、脱水症状などをともなうこともあります。
感染性胃腸炎にかかってしまったときに気を付けたいのが、嘔吐や下痢によって体の水分が失われる「脱水症状」です。脱水症状を防ぐためにも、こまめな水分補給を心がけましょう。水だけでなく、失われた電解質を補えるスポーツドリンク(症状が軽い場合)や経口補水液を飲むのもおすすめです。
脱水症状があると、風邪の症状がさらに悪化することもあるため、意識的な水分摂取が大切です。また、感染を広げないためにも、ウイルスがたくさん含まれている嘔吐物や下痢便には直接触れず処理をし、その場所の消毒をした後で、丁寧な手洗いと手指の消毒を行ないましょう。
インフルエンザと新型コロナウイルス感染症は、老若男女問わずかかる可能性のある感染症です。ここでは、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の症状や、ワクチンを接種する必要性について解説します。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こる病気、新型コロナウイルス感染症は新型コロナウイルスによって起こる病気で、軽い症状ですむ風邪とは違い、重いあるいは強い症状となりがちです(以下、表参照)。
高齢者のなかには、急に高熱が出たり関節が痛んだりといった典型的な症状が現れず、何となく体調が悪い状態が続くこともあるため注意が必要です。こうした症状が長引く場合は、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症だけでなく、肺炎や結核などほかの病気が隠れている可能性もあるため、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
風邪 | インフルエンザ | 新型コロナウイルス感染症 | |
---|---|---|---|
症状の出始める場所 | 局所(鼻・のど) | 全身 | 全身 |
進み方 | ゆるやか | 急激 | ゆるやかだが、急激に重症化する場合あり |
発熱 | 37〜38℃未満の熱 | 38℃以上の高熱 | 37.5℃以上が3〜5日以上続くことが多い |
主な体調の変化 | くしゃみ、鼻水、鼻づまり、 のどの痛みなど |
足腰や関節に強い痛み・悪寒など | 咽頭痛、咳、頭痛、倦怠感、筋肉痛、味覚・嗅覚障害など |
治るまで | 一定ではない | 7〜10日くらい (発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで学校の出席は停止) |
1週間程度 (発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで学校の出席は停止) |
※インフルエンザと新型コロナウイルス感染症は症状が類似していることが多く、症状からの鑑別は難しい
出典:「かぜと新型インフルエンザの基礎知識」(岡部信彦著、少年写真新聞社)より一部改変
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は、流行前にワクチンを接種しておくことで、たとえかかっても症状が軽く済んだり、重症化しにくくなったりするといわれています。特に抵抗力が弱い高齢の方がインフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかると、肺炎などの合併症を引き起こし、重症化するおそれがあります。
こうした状態になると命にかかわるおそれもあるため、できるだけ発症を防ぎ、かかった場合でも重症化を防ぐことが大切です。また、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の予防と併せて、肺炎の原因として多い肺炎球菌の感染を防ぐために「肺炎球菌ワクチン」の接種も検討しましょう。
ここからは、風邪に関するQ&Aを紹介します。
軽い風邪なら、お風呂で汗を流してすっきりすると、よく眠れるようになり回復を助けることもあります。ただし、熱すぎるお湯に入ると体力を消耗してしまい、かえって逆効果になることもあるので注意が必要です。体調に合わせて、「気持ちいい」と感じる温度や入り方を心がけましょう。
熱が上がって寒気がするときは体を温め、反対に熱が出て体が熱く感じるときは薄着にして熱を逃がすようにしましょう。まだ言葉で伝えられない赤ちゃんや、自分で調整ができない高齢の方などは、汗のかき方やおしっこの量を目安にして、着るものや布団をこまめに調整してあげることが大切です。
また、汗をかいたままにしておくと体が冷えて体力を消耗するため、こまめに汗を拭いて着替えるようにしましょう。
食事が摂れるときは、水や薄いお茶、薄いジュースなどでも水分補給として問題ありません。しかし、食事を摂れない場合や胃腸炎のときは、体内の電解質が不足しやすいため、経口補水液を使うと効果的です。風邪や胃腸炎のときは、栄養補給と水分補給を意識して行ないましょう。いわゆるスポーツ飲料は、飲み過ぎると糖分が過剰になったり、脱水となった時の水分・電解質類の補正には不適当となります。
風邪薬(総合感冒薬)は、様々な症状に対応できるように作られており、主に解熱鎮痛作用のあるイブプロフェン製剤と、アセトアミノフェン製剤の2種類があります。購入の時には、薬剤師や登録販売者に相談して、自分に合った薬を選ぶことが大切です。
また、子どもに解熱鎮痛薬を使う場合は、アセトアミノフェン製剤が好ましい(安全性が高い)とされています。
イブプロフェン | アセトアミノフェン | |
---|---|---|
特徴 | 解熱、鎮痛効果が高い | 解熱、鎮痛効果は弱いが、小児における安全性が高い |
服用年齢 | 15歳以上 | 2歳以上 |
※3ヵ月以上の子どもから服用できるものもありますが、2歳未満の乳幼児は医師の診察を優先してください。
抗生物質(抗菌薬)を飲むと胃腸の調子をくずすことがあり、このような胃腸障害を防ぐために胃腸薬が一緒に処方されることが多くあります。市販薬を選ぶときに「胃への負担が心配」という場合は、薬剤師や登録販売者に相談しましょう。
風邪をひいたときに、以前に処方されて家に残っている抗生物質(抗菌薬)を自己判断で飲むのは絶対にやめてください。抗生物質は細菌による感染に使う薬であり、多くの風邪の原因となるウイルス感染症には効かないばかりか、症状を悪化させることもあります。
また、大人用の解熱薬や風邪薬を子どもに飲ませるのも危険ですのでやめましょう。症状が悪化したり、副作用が出たりするおそれがあります。特にインフルエンザでは急性脳症やライ症候群などの重症合併症を悪化させることもあるため注意が必要です。
薬の使用に不安がある場合は、自己判断せず、薬剤師に相談したり、医療機関を受診したりしましょう。
風邪は医学的には「風邪症候群」といい、特定の病原体による症状を指すものではなく、主に呼吸器系に現れる症状の総称です。ほとんどの風邪は自然に回復していきますが、なかには中耳炎や肺炎、脳炎などの合併症を引き起こす場合もあるため注意が必要です。
風邪をひかないよう、日頃からマスクでの予防、手洗いやうがい、温度・湿度の管理に努めましょう。風邪をひいてしまった場合は安静を第一にし、こまめに水分を摂ることが重要です。症状がつらいときには体調に合わせて市販の風邪薬を服用し、症状をやわらげるのもよいでしょう。
ただし、症状が長引いたり、いつもと違うと感じたりした場合は、ためらわずに医療機関を受診するようにしてください。