成分について

ココロに効く漢方
抑肝散(よく かん さん)

 青山杵渕クリニック 
所長 杵渕 彰 先生
抑肝散は近年マスコミで頻繁に取り上げられるようになっております。
これは、認知症の方が増えていることの他に、抑肝散が認知症に伴う異常行動に有効であることが確認されたからと推測されます。
抑肝散は元来小児用の処方ですが、それ以外にも広範囲に用いることができるので、一部ではありますがご紹介したいと思います。

はじめに

抑肝散(よくかんさん)は軽症の精神症状に頻用される漢方処方です。他にも「ココロに効く」といわれる漢方は多数ありますが、軽症の精神症状の漢方治療にはとても有用なものであると考えております。
平成27年12月から厚生労働省は50人以上の規模の事業場にストレスチェックを行うことを義務化いたしました。まだ始まったばかりで判らないことも多いのですが、ストレスチェックを受けた労働者の約10%は産業医などと面談が必要になると考えられております。
しかしその要面談者のうち、実際に面談を受けるのは更にその10%程度であろうと言われております。つまり要面談者のうち90%くらいの方が最寄りの薬局・薬店、ドラッグストアなど、会社の産業医以外のところへ行く可能性が高いことになります。重症だと漢方薬だけでの改善は困難ですが、軽症の精神症状では改善をみることも多く、抑肝散を処方される機会も多いのではないかと思います。

1. 抑肝散の歴史

抑肝散は、中国の明時代に名医で医学界の頂点までいった薛己(せつき)という医師が創った処方です。従来薛己の父親の薛鎧(せつがい)が作った処方であるというのが定説でしたが、私達の研究で息子の薛己が創った処方であると確認できました。「保嬰金鏡録(ほえいきんきょうろく)」という小児の治療をまとめた書物の中に記載されており、痙攣があったり物事に驚きやすく、びくびくしているような状態の子供に用いると記載されております。

母親と子供が一緒に服用できる漢方処方

またこの書物には抑肝散を服用するときに母と子供と一緒に服用するようにという意味で「子母同服」と記載されております。子供の諸問題の多くは母親の問題が大きく関与しているという現代では常識となっている考え方が、この時代からよく知られていたのだと思います。

抑肝散は、中国では明時代で使われていたようですが、その後は文献にもほとんど現れなくなってしまいます。しかし日本では、明時代の医学が江戸時代の医学に大きな影響をもたらしたことから、この処方も頻用されて現在に至ります。

日本では、江戸時代に多数の医師が経験や意見を述べております。代表的なものは18世紀後半の『餐英館療治雑話(さんえいかんりょうじざつわ)』(目黒道琢)で、虚弱な子供や怒りっぽい小児に長期に服用させることのほか、大人でも脳血管障害後遺症、体の正面の中心に強ばり、動悸があり心窩部(しんかぶ)につかえがあるような場合に「怒り」があるかと聞いてみて、あるという場合には有効なものであると記載されております。また和田東郭は多怒、不眠、性急などの症状を対象とし、抑肝散と芍薬甘草湯とを合方して用いたと言われています。

2. 抑肝散処方の構成について

漢方の効能・効果は一般的に、適応する体力(体質)を5段階に分けて表示します。抑肝散はその中で「中等度」を目安としています。この体力中等度とは、日本漢方でいう「虚」と「実」の間を指します。
体力が極端に弱く、日常生活を送ることが困難な方や虚弱な方(いわゆる「虚」)が抑肝散を服用すると、かえって倦怠感が強くなったりすることがあります。逆に体力が充実している方(いわゆる「実」)は、抑肝散を服用することはないのかもしれませんが、服用しても効果が出ないことがあります。このような極端に「虚」と「実」である方以外は、どなたでも当てはまる処方ということになります。

抑肝散の構成生薬は、柴胡(さいこ)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、川芎(せんきゅう)の7種からなり、この構成からみると体力的に特別虚弱で家から出ただけで寝込んでしまうというほどの虚弱者でなければ幅広く服用できると言えるでしょう。

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